私と思考

私が日々感じたことを書きます。

村上春樹著「騎士団長殺し」は素晴らしかった

 はじめまして。私です。

 つい先日、「騎士団長殺し」を10日間ほどかけて読みました。

この記事ではネタバレ等は書いていませんが浅い感想は書いています。

 

作品概要

 

 主人公の「私」は画家。突然6年間生活を共にしてきた妻のゆずに別れを告げられます。そこで美大時代の友人の父であり、著名な画家である雨田具彦の山の上の邸宅に住み始めます。そこから、「騎士団長殺し」という絵画の発見、謎の男、免色さんとの出会いや、深夜に庭から聞こえる鈴、など様々な不可解な出来事が「私」の周りに持ち上がってきます。

 

読んで思ったこと

 率直な感想は、自分自身のこころの暗闇の中で光る一つの灯に目を向けることができる作品であったということです。いままでにも彼の他の作品はいくつも読んできましたが、作風や題材は「いつもの」感じでした。

 

 ただ、読むにあたっての「ゾッとする」感じ、そして作中に出てくる人の奥底に生きる感情のディティールの描写は今までの作品よりもずっと明確だった気がします。だからこそ読んだ後、(これは彼のほかの作品にも言えることですが)自分の中で今まで足りなかったパズルの一部が一つ、しっかりとはめ込まれた感じがするんですよね。

 

 この作品のもととなっているのは、ナチや南京事件だと思います。雨田具彦はその怒りや悲しみのメタファーとして「騎士団長殺し」という絵画を描かないわけにはいかなかったのです。

 そこで、それと同じく心の暗喩として描かれているのが「白いスバル・フォレスターの男」。その恐ろしさは彼自身ではなく、彼は「私」の中で生き続けているということ。そこに描かれている肖像は、彼自身ではなく、私の中に生きている「恐怖」なのですね。

読んでいる私自身も「白いスバルフォレスターの男」を見てしまうんじゃないかという生々しい恐ろしさに遭遇しました。それくらい、潜在意識の描写が鋭い作品でした。

 

 また、様々な思惑をもって私に近づいてくる「免色さん」。はじめの彼の印象は、悠々自適に暮らし、私に巧妙に近づき、なんだか怪しい人だなといった感じでした。しかし読むにつれて、完璧に見える彼のアンバランスさこそが村上春樹が書きたかった「乾き」であり、「無」の表れであると感じました。私は免色の存在はグレートギャッツビーに出てくる「ギャッツビー」と一部重なりました。

周りは固まっていても中心は乾き果てている心。一つのものを求め続けなければならない不安定さ。グレートギャッツビーでいえば「ギャッツビー」もデイジーの無思慮さはおそらく知っており、だからこそ彼女を求め続けたのだと思います。全体的な人物像は全く異なり、その人物を通して、物語で書こうとされていることも全く違うわけですが。ただ、その点においても、この作品でも、村上春樹のグレートギャッツビーにおける「血筋」を感じないわけにはいかなかったということです。

 

 作品をとおして、主人公「私」の数か月の奇怪な体験をとおして、「信じる力」というものを教えられました。イデアはいつだって私のことを見ています。だからこそ、イデアは私を導いてくれ、私たちは、自分が正しいと思うことを信じ続けなければならないのだと思います。

 

 作品の厚みがありすぎて、ものすごく浅い感想になってしまいました。そして作品全体を通して、分からないこともとても多かったです。例えば雨田具彦にとっての「顔長が」とはどんなものなのか、顔のない男は一体何なのかなど・・・あげたらきりがありません。ただ、言葉では表せないものを、村上春樹の文章を通じて見れた気がします。(変な言い方ですが)とにかく、「騎士団長殺し」は村上春樹のすべてが現れた、生々しく鋭い作品でした。村上春樹の総まとめといっても過言ではない気がします。傑作でした。ぜひ、読んでみてください。

 

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